誰の心にも観音がいる

しかし、仏になるといっても、いろんな仏さんがあります。

大乗仏教では、四種類の仏さんがおられます。一つは如来さま。これは、すっかり悟りを開いた本当の仏さまです。もう一つは観音さま。これは今から仏になろうとする、仏になろうとして努力している人間です。もう一つは、仏を守る明王さん。その多くは憤怒の相をして仏を守っています。それから、天部。天部の仏さんは明王と同じように仏に仕えるけれど、あるいは四方を守る神とか、あるいは福をもたらす神があって、仏教を荘厳にします。

如来さまにも、いろんな仏さんがいます。如来の元はお釈迦さまです。お釈迦さまの能力は人間の苦しみを救うことです。四つの苦しみのひとつである病気の苦しみを治すことが仏さんとして独立したのが薬師さまです。死の苦しみを救うのが阿弥陀さま。人間が死んでから往く極楽浄土の仏さまです。それに密教の崇拝する、宇宙の中心にいらっしゃる大日さま。如来にはそういうふうに多くの種類があります。

如来の中では大日さまは一味ちがいます。如来さま本来、悟りを開いた仏さまですから、装飾具はいっさいいりません。頭は螺髪(らほつ)で、装飾はありません。悟りを開いたら裸一貫。だから如来さまは、みんななんの装飾もしていません。ところが如来の中でも、大日さまだけは王冠をかぶっています。なぜかというと、大日さまは密教の仏さまですが、密教は強く現世肯定の思想を主張しますから、そのご本尊も現世の王様の格好をして、現世肯定の思想を強く打ち出しています。

如来に対して菩薩さまは、まだシャレっ気があります。菩薩さまはいろいろあります。その代表が観音さまです。観音さまは、本当は如来さんになれるんです。でも、なれるけれど、ならない。なぜかというと、民衆を救うためです。如来さんになって向こうへ行ったら民衆を救えないから、民衆を救うために、民衆と同じ現世にいて、民衆と同じ格好をしています。

観音さまは大乗仏教の生み出した仏です。大乗仏教は、すべての人を救おうとする菩薩の仏教ですから、大乗仏教のエースが観音さまということです。観音さまは、三十三通りに変化します。あるときにはお坊さんの格好をしているし、あるときには普通の人の格好をしています。あるときにはじいさんの格好をし、あるときには女の人の格好をしています。これはどういうことかというと、みんなの中にも観音さまがいるということです。

菩薩さまには観音さま以外にも、勢至(せいし)さまとか文殊(もんじゅ)さま、普賢(ふげん)さまとかがあります。特に民衆に大変崇拝された菩薩は地蔵(じぞう)さまです。地蔵さまは坊さんの格好をしています。坊さんの格好をして地獄に落ちた人間を救います。悪いことをしたら地獄へ行くといいますが、実際、人間は悪いことをしているんです。地獄に落ちるような業を犯していないと言い切れる人はいません。地蔵さまはそういう人たちを救うのです。特に子どもを地獄で救う。だから地蔵さまは観音さまと並んでいちばん崇拝された菩薩さまなのです。

もう一つは明王。明王の代表は不動明王です。東寺の不動明王はいいですよ。不動明王は悪を退治します。悪を退治するというのは外の悪ばかりではく、自分の中の煩悩も退治します。怒りの仏です。

もう一つは天部。日本で崇拝された天部は毘沙門さまです。これは四天王という四方を守る仏さまの一体で、北方を守ります。京都の東北には鞍馬の毘沙門さまがおられます。それから大黒さま。大黒さまはお金と縁があって、福をもたらします。七福神の中心は大黒さんです。それに弁天さま。弁財天の「財」の字から分かるように、お金儲けの仏でもあります。美人でお金儲けをさせてくれるというのは、結構な仏さまですね。